ルーツを知るということ -札幌WSレポート-
先日、生まれ故郷の札幌に帰省した際に機会をいただき、座学スタイルのワークショップを開催しました。
本記事は、ワークショップを振り返り、整理し、今後の研究活動に生かすことを目的にしたものです。
ありがたいことに、様々な方から反応をいただきました。次回の開催も構想中ですので、今回来られなかった方々はぜひご一読いただければこれ幸いです。
それでは!スタート!
8月某日、少し遅めの21時30分から、23時という予定時刻を大幅にオーバーした24時まで行われました(それだけ盛り上がったのです!)。
私が今回設けたねらいは以下の3点。
- 「ワークショップ」といえど、講師の私が一方的に喋り倒すような会合にはしたくない、参加者に喋ってもらうことを重視
- ググれば得られるような表面的な知識(ヒップホップにおけるハンドサインなど)ばかりではなく、学術的根拠に基づいた見解や事例を紹介すること
- 上記2点を通して、参加者が自らのヒップホップ観を内省すること
このようなねらいのもと、私は以下のレジュメを作成し、ワークショップを進めました。
https://www.dropbox.com/s/d6v61yxc4jiu2z5/0827WS.pdf?dl=0
(見れるかな?)
コンテンツは以下のとおり。
- 講師自己紹介
- この数か月で学んだこと
- 私がみんなに教えられること
- 参加者自己紹介(今日は何を知りたい?)
- ヒップホップ観(ダンス観)
- アートとしてのヒップホップ
- 日本でヒップホップをやるということ
- もっと知りたい人は
- フリートーク
私はこの春から京都の大学院で黒人研究をしていますが、京都に来て最も変化したのはヒップホップという文化の捉え方です。
札幌でダンサーとしてヒップホップに携わっていたときは、「ヒップホップ」単体、「ヒップホップ」の範疇でしかその文化を捉えていませんでした。
つまり、京都にきてこの数か月で学んだことは、
- ヒップホップは黒人奴隷制時代から長く続く、黒人らによる抵抗の歴史の系譜上に位置しているということ
- ヒップホップという文化は、他の様々な文化や社会と関わり合いながら生まれ、今もなお発展している文化の一つであるということ
こうした観点を得られたことは、私の研究において非常に有意義であり、かつ不可欠であったと実感しています。
なので、参加者のみなさまには、私がお話できるのはこうした見地に基づく内容のものであること、私も勉強中の身であるためわからないことは一緒に考えましょうということ、この2点について了解を得たうえで、本題に入っていきました。
まず「好きなヒップホップの曲またはアーティスト」をレジュメに記入してもらい、それからレジュメに記載した「ヒップホップの基礎知識」を、様々なエピソードを交えながら説明。(この時点で大盛り上がり。(笑))
それを踏まえて、先ほど記入した好きな曲やアーティストを自分なりにカテゴライズしてもらいました。(例えば「リリックが好き」「音の質感が好き」「踊りやすい」など)
これは、 “無意識的に” 選択して(たぶん「好き」とはそういうこと)聞いているヒップホップミュージックを、 “意識的に” 見つめなおすことで自分のヒップホップの好みに対する気づきを促すために行ないました。
ここで面白かったのは、参加者4人のうち男女比が2:2だったのですが、女性は「女の強さ・美しさ」的なるものを歌うアーティストに惹かれ、男性は反対に「男(否、漢)の浪漫」などをテーマにしたアーティストを魅力的に感じる、という結果になったことです。人は芸術などの表現活動にある程度自分を投影して受容するとは思うのですが、「共感」のパワーはものすごいなあと改めて感じました。
また、ある人は「音楽」と「ダンス」が密に繋がっていると答え、ある人は「音楽」と「ダンス」には距離がある、むしろ切り離して聞くと答えていました。「音楽の聞き方は人ぞれぞれ」説が実証された瞬間でした。
自分の「好き」を可視化した上で、次に「ヒップホップのどこが魅力的ですか?」「あなたにとってヒップホップとは?」という項目を2つ続けて記入してもらいました。
これは参加者それぞれの「ヒップホップ観」の本質に迫るために設定した項目です。ワークショップ開始時にはわからなかった自分のヒップホップ観も、先述の過程を経ることで考えやすくなったはずです。
参加者のみなさまのプライバシーを守るため、具体的な内容をここで記すのは控えますが、四者四様、一人ひとりヒップホップのいろいろな側面に魅力を感じていて、それだけ捉え方にバリエーションがあることがわかりました。
私は、ヒップホップはそれでいいと思っています。それこそがヒップホップの魅力だとも思っています。というのも、ヒップホップという文化には明確な定義やルールがないのです(マナーはありますが)。だから、他者に強制され価値観を矯正される、というようなことはヒップホップにはそぐわないと考えます。
ただ、一つだけ条件があります。
それは、ルーツを知り、そこにリスペクトをはらうことです。
ヒップホップが生まれて約40年、明確な定義やルールがないにもかかわらず今までこの文化が衰退せずに発展してきた所以は、この条件が守られてきたことにあると私は思っています。
(「6.アートとしてのヒップホップ」「7.日本でヒップホップをやるということ」の、結論はこれです。ここでは割愛しますが、気になる方は今度個別にお話します◎)
これが私が今回のワークショップでお伝えしたかったことです。
ルーツを知らないことにはリスペクトのはらいようがありません。
だから学ぶのです。そのためにこのワークショップを企画しています。
今回のワークショップでは私含めその空間にいた全員が、極めて充実した面持ちだったのが非常に印象的でした。自分と、ヒップホップと向き合い、気づき、学ぶ姿がなんだか感動的でした。美しいとさえ感じました。
本当にいい時間だった。
また、やりますので、少しでも興味が湧いたらぜひお越しください。
Akane.Y