この1年を振り返ろう ―「ヒップホップ=黒人文化」神話について―
先週金曜日をもって今年度の全授業が終わりました!!
つまり現在春休み真っ只中であります!!わーーー!
4月から今まで、感覚的にはあっという間だったけれど
改めてきちんと振り返ると 4月って随分昔のことに感じるなあ
これ新しい環境あるあるだと思うんだな、そろそろこの逆説的現象に名前が要る気がする、、
【春~夏】
札幌から上洛、初めての引っ越し&一人暮らし
家が "house" じゃなくて "home" になるまで相当時間がかかったし
家、街、学校などのあらゆる環境と今まで自分がいた環境のギャップが大きすぎて
自分の無知さや視野の狭さ、無能さを感じました。
「ここにいていいのかな」って100万回くらい思ったし
とにかく劣等感にまみれていた(笑)
「こういう経験をするためにこっちに来た」
と言い聞かせては自分を奮い立たせる毎日だったなと思います
【秋~冬(こっちには雪がないので冬を「秋の延長」と言っても過言ではない)】
夏休みの帰省やこっちでの新たな出会いを経て
だんだんとここが "home" になっていきました。
研究の面でも 徐々にわかることやできることが増えていって
ほんんんのり輪郭が見えてきたような、気が、します
(こうなると欲が出てくるんだな)
とまあそういうわけで
修士課程1年目の研究の振り返りと題して
この一年間の気づきや違和感を基にした、ある考察をしてみたいと思います。
めちゃくちゃざっくり言うと
前期では
黒人史や黒人文化史を学び、それまで
- ヒップホップをヒップホップ単体でしか見ていなかったこと
- つまりヒップホップは奴隷制時代から続く長い黒人史の系譜上に位置すること
を知り
後期では
アメリカ文化史や、さらに広義な文化史や思想史を概観することで
- 宗教の権威、その影響の甚大さ
などに気づくことができました。
で。でですよ。
大事なのはここからで、これらを学んだ一年間を修了した1月末現在、
わたしの中の一番のモヤモヤ、それは
「ヒップホップは本当に黒人文化なのか?」ということ。
(ここでの「黒人」は奴隷を先祖に持つアフリカン・アメリカンを指すこととします)
というのも、わたし自身がこの
「ヒップホップ=黒人文化」というナラティブを盲信していた節がありまして。
それもそのはず、先ほども触れたように前期修了時には
「ヒップホップは黒人史の系譜上にある」と明言していますから、、
これには学術的根拠がもちろんあって、
ヒップホップを黒人文化として位置付ける試みをしている論文は数多く存在します。
また学術的根拠以外のものだと
わたし自身が身を置くヒップホップコミュニティにおいても
「ヒップホップは黒人の文化だから、、」
「黒人にしかできない動きで、、」
「本場の黒人は、、」
といったような、ヒップホップと黒人を自ずと結びつけるナラティブをたくさん耳にします。
修士1年目を終えたわたしは
こうしたステレオタイプ的なヒップホップの見方に懐疑的なまなざしを向けるようになります。
以下では、そう考えるに至った根拠を
文化への主な関与方法である
【生産/創作】【流通/普及】【消費/受容】
という3つのベクトルを独自に設定して整理していきたいと思います!
いざ!
根拠その1【生産/創作】
1970年代中期にニューヨークのゲットーで生まれたヒップホップ。
その誕生に寄与したのは、アフリカン・アメリカンだけではない様々な人種の青年たちでした。
例えば、
ヒップホップ黎明期の3大DJ(DJ Kool Herc, Afrika Bambaataa, Grandmaster Flash)のうち2人はカリブ系地域の出身だし、
パーティーでフロアを沸かせていたB-BOYの中にはヒスパニックがたくさんいたし、
グラフィティのフィールドでは特にプエルトリカンの活躍が著しかった。
こういった当時の状況を詳らかに描写している The Get Down (2016-17) というドラマが、
Netflixで見れるのでアカウントをお持ちの方はぜひ見てみてください!
(私はこのドラマを見たいがために登録した)
これね、何を隠そう主人公のエゼキエルくん、ヒスパニックなんですね。
この設定だけでも十分示唆的だと思いませんか?
これについては、
根拠その2【流通/普及】
それまで都会の局所的な流行でしかなかったヒップホップに目をつけ、
ラップをレコードにして世に送り出したレーベル(レコード会社)には
白人(とりわけユダヤ人)の経営するものが少なくありませんでした。
- Rick Rubin / Def-Jam Recording …PUBLIC ENEMY, Beastie Boys, LL Cool J など(デフジャムのロゴはしばしばファッションデザインのサンプリングソースになりますね)
- Tom Silverman / Tommy Boy Records …B-BOYのアンセム、 Afrika Bambaataa & the Soulsonic Force の Planet Rockで有名
- Bryan Turner / Priority Records … N.W.A.メンバーのソロ作品など
- Ted Field / Interscope Records …ラップのみならずロックやR&Bなど幅広いジャンルを扱う
ヒップホップヘッズにとってのバイブルと言わしめたマガジン、
The Source の創設者はハーバード大学の白人学生 David Mays でした。
学内の時事通信としてスタートしたThe Source は
マイクの本数(5本が最高)で評価する辛口ディスクレビューで名を馳せ、
瞬く間に全国区の雑誌へと上り詰めます。
こうした批評の土壌養成にもまた、非黒人の関与があったのです。
(ちなみに現在の The Source の編集主任である Kim Osorio は、
プエルトリカンの父とチャイニーズ・アメリカンの母をもつ女性です)
根拠その3【消費 / 受容】
少し前になりますが、こんなエピソードがあるのでご紹介します。
1991年、音楽業界誌 Billboard のヒットチャートシステムに「サウンドスキャン」というものが新たに導入されました。
「サウンドスキャン」とは、コンビニやスーパーのようにCDショップでも
バーコードを使って地域や客層などの売り上げ情報を管理・分析し、
音楽業界にそのデータベースを配信するというシステム。
これによって、当時一世を風靡していたギャングスタ・ラップのリスナーの大半が
郊外の白人ティーン層であることが判明したのです。
しかし、この論説にはやや留意が必要で、
- 都市と郊外の人口では母数に差がありすぎる⇒正確な比較は可能なのか
- 1990年代初頭のニュース⇒現代はCDの売り上げのみでセールスを計ることは不可能
と言えます。
ここからは私の考察。
これはもう、こういう記事を書いている時点で自明なのですが
私たち日本人(つまり非黒人)が
ラップを聴き、それに合わせて踊り、ストリートファッションを身にまとい、
日夜クラブに集いヒップホップマナーに則ったパーティーを楽しみ、
こうしてヒップホップについて考察し議論をしている事実こそが、
「ヒップホップ≠黒人文化」ということを体現していると思います。
ですが、これは私の経験則かつ主観であるため学術的根拠に基づく言説とは言えません。
今後さらに研究を重ねて、現代のヒップホップカルチャーにフィットする論拠を探りたいと思っています!
さて、私の抱えるモヤモヤ「ヒップホップは黒人文化なのか?」と思う根拠の説明は以上です。
それで、ここからが肝要だと思うのですが、
「じゃあなんでヒップホップ=黒人文化というナラティブが定着したのか?」
ということについて、私なりの仮説を立ててみました。
- メディアやレーベルによるパッケージング
⇒「ヒップホップ」と「黒人」をセットにしたイメージの定着を計った方が、商品がよく売れる。彼らにとって商業戦略としてのステレオタイプ化は常套手段なのだと思う。 - 「黒人音楽」と「黒人文化」の混同
⇒確かに、ヒップホップの表現様式には黒人音楽(アフリカ大陸の民族文化に由来するもの)からの影響が見られる。その事実は覆すことはできないと思う。その一方で、表現内容を見てみると、「抵抗」や「反骨精神」、「プロテスト」などが特徴。つまり、私たちは長らく「表現“様式”」と「表現“内容”」を混同して考えていたのではないか?そこをセパレートして考えると、本来なら普遍的なテーマ(「抵抗」など)をもつヒップホップが、黒人だけの文化として特殊化させることができないのは当然とも言える。
現時点での、「仮」説なので、もっともっとこれらを裏付けるための根拠が必要だし、
なんなら、[「『ヒップホップ=黒人文化』というのは神話である」という神話]かもしれないし(わかりづらいな)、
つまりこの言説はまだまだ発展途上の途中経過の大伸びしろ案件である、と、そう言いたい、、
あくまでもこの1年のまとめということなので、ね!
これが100%真実だという言説はどこにもないので、、
(コナンの「真実はいつもひとつ!」、あれ嘘だよ)
と、今後検討すべきモヤモヤが見つかったところで(先生には「せっかく面白いテーマなんだからレポートをお書きなさいよ、待ってるね」と言われた)、今回の記事をしめたいと思います!
来年度はついに修論の執筆が始まります、来年の今頃には提出し終えてるだなんて信じられないわ、、
こんな莫大長文お化けブログを最後まで読んでくださっている仏のみなさま、
本当にありがとうございますm(__)m
もし、もし、質問や「もっとこういうことが知りたい!」などご要望・ご意見ございましたらぜひお願いします!
めちゃめちゃモチベーションになりますので!